MRI(magnetic resonance imaging)は、頭部、腹部臓器の
診断にはすぐれた画像診断の機器である。最近では、
胸部でも一部肺癌の診断に利用されてきているが、胸部
疾患の診断に関しては、その有用性は限られているという
考えもある。
今回、MRIを使用して、呼吸筋の中でも主要な吸気筋で
ある横隔膜を非侵襲的に描出することができたので報告
してみたい。
方法
徳山医師会病院放射線科の東芝製0.5Teslaを用いた。
被験者は仰臥位とし、体位が水平となるように調整して
、頭部から機器に進入した。被験者に最大呼気を行なわ
せ、スライス位置を決める撮像を行なった。冠状断
(正面)のスライスは心臓のやや後方とすることで
心臓の拍動によるアーチファクトを少なくした。
矢状断(側面)のスライスは、左右の乳線より、やや
内側とした。安静呼気位(FRC)から撮像を開始し、
数回の自然呼吸後、ゆっくりと吸気を行ない全肺気量
(TLC)に達したら、ゆっくり呼気を行ない残気量
(RV)に到達した後に自然呼吸とした。
撮像は、dynamic Field echo法を使用し、パラメータは
TR 9.0秒、TE 3.0秒、フリップ角45度とした。
1枚の画像を得るのに、約1.5秒の撮像時間であり、検査
時間は約10分であった。
正常対象者をMRI撮像し、その後、肺気腫患者を撮像
した。
症例
78歳、男性、肺気腫:
4年前より肺気腫を指摘されているが、最近になり
少しの歩行でも呼吸困難が出現してきた。
呼吸機能検査:VC 1.43L, %VC 46.2%, FEV1.0 0.55 L,
FEV1.0% 66.2%,混合性肺機能障害
血液ガス:PaO2 73.1mmHg, PaCO2 38.6mmHg, pH 7.444
dynami MRI:
矢状断(側面像) 冠状断(正面像)
上の画像が、最大呼気位(RV)
下の画像が、最大吸気位(TLC)
この肺気腫の患者さんは、呼吸機能では、中等度〜
高度の混合性肺機能障害を認め、flow-volume curveでも
著しい閉塞性障害を認めている。胸部X線写真では、肺
は過膨張肺であり、横隔膜の低位を認めている。
dynamic MRIの結果は興味深い。
正面像では、横隔膜がピストンの様に上下している。
横隔膜は、肋骨弓付着の肋骨部と腰椎付着の脚部とが
中心腱で出合って一つのドーム状となった骨格筋である。
横隔膜肋骨部は下部胸郭を裏打ちするように平行な構造
となっている。(zone of apposition という)
このために、横隔膜は横隔神経の刺激をうけて収縮し
ピストン様に腹腔側に移動することで胸腔内圧を陰圧に
して肺を膨張させる。
肺気腫では、肺過膨張のため、肺が縦方向に伸びている
ことより、横隔膜長は短くなり横隔膜の zone of appo-
sition は減少していると考えられる。しかし、一秒量
0.56Lの この患者さんでは、zone of apposition に
よる横隔膜のピストン様運動はみごとに dynamic MRI
で証明されている。このことは、肺気腫の呼吸理学療法
における腹式呼吸練習は、十分有効であると考察される。
しかし、肺過膨張がさらに高度となり、横隔膜が逆に下
に凸となるほどの過膨張肺となった場合の腹式呼吸の
効果については疑問である。
側面MRI像の所見も興味深い。
横隔膜の運動は背側部が最も大きく、腹側部はわずかで
あった。心不全と喘息、肺気腫などを原因とする呼吸不全
の状態に起座呼吸が知られている。呼吸不全患者では、
前のテーブルなどにもたれた前傾状態の起座呼吸であり、
心不全患者では、ベッドを高くした後傾状態の起座呼吸
であることが多い。これは、呼吸不全では前傾姿勢をとる
ことにより、呼吸筋として作動している横隔膜が背側部
を地面に対して平行位置に置くことにより、より重力を
利用した横隔膜の効果的な使用を行なっているのであろう
と考えられる。
参考文献:肺気腫 病態生理と臨床(金芳堂)
1遍 3章:肺気腫のchest wall ポンプ機能
2遍 2章:D.dynamic MRI