症例:68歳女性
主訴:呼吸困難、咳、喀痰
現病歴:小児期に重症肺炎あり。32歳のとき、右中葉気管枝
拡張症による血痰がつずき、中葉切除術を受けた。以後、
肺炎にて入院したことがあるが、元気に生活していた。
1週間前より、感冒症状があり、経過をみていたが、呼吸
状態がわるくなり近医を受診して入院をすすめられ医師会
病院に平成11年2月26日入院した。
既往歴:左乳癌で乳房切断術を受けている。
入院時現症:
意識障害は認めない。血圧130/92、脈拍127/分、体温
36.9度、胸部聴診で右肺野にラ音を聴取する。左肺呼吸音
は減弱している。顔面浮腫を認める。胸部皮膚に右中葉
切断術、左乳房切断術の瘢痕を認めた。
入院時検査所見:
血液ガス分析(空気吸入時):PaO2 29.6mmHg,PaCO2
71.2mmHg, pH 7.431, HCO3- 46.4mEq/L
胸部X線写真:
右上葉に陳旧性肺結核が原因と考える硬化巣と、これを原因とする
気管の屈曲を認める。左横隔膜は挙上して横隔膜弛緩症と考えられる。
胸部CTでは、右下葉に気管支肺炎像を認めた。
入院経過:
入院時血液ガスで著しい低酸素血症、高炭酸ガス血症を認めた。
O2 (1.5L/分)吸入により、血液ガスは PaO2 105.6
mmHg, PaCO2 99.1mmHg, pH 7.231と
酸素分圧は上昇したが、著しい高炭酸ガス血症をきたした。
しかし患者さんは軽度の傾眠傾向はあるが、応対はほぼ正常であった。
この時点で、挿管し人工呼吸器を使用する治療も考えたが、まず
NIPPVを施行することにした。
血液ガス経過:
| 2月26日 | 2月27日 | 2月27日 | 3月1日 | 3月4日 | 3月15日 | |
| O2吸入 | RA | 1.5L | NIP0.75 | NIP0.75 | RA | RA |
| PaO2 | 29.6 | 105.6 | 75.3 | 56.7 | 56.0 | 57.4 |
| PaCO2 | 71.2 | 99.1 | 81.8 | 69.7 | 63.1 | 56.3 |
| pH | 7.430 | 7.231 | 7.354 | 7.376 | 7.362 | 7.372 |
| HCO3- | 46.4 | 40.3 | 44.5 | 40.2 | 35.2 | 31.9 |
喀痰検査で緑膿菌を検出した。点滴注射でチエナム 0.5g一日2回
点適した。NIPPVを最初は、昼間および夜間も施行したが、血液
ガスが改善してからは夜間のみとした。
3月15日血液ガス(RA):PaO2 57.4mmHg,
PaCO2 56.3mmHgと改善した。
コメント:
NIPPV (Non Invasive Positive
Pressure Ventilation)(非侵襲的陽圧換気)
NIPPVは換気補助を目的とした 非侵襲的陽圧人工呼吸として
1980年代後半より導入された。今回、テイジンNIPネーザルを
NIPPVに使用した。NIPPVの最大の目標は患者の呼吸困難
感を改善させることであるといわれている。今回の治療により患者
さんは、呼吸が楽になり、夜間の睡眠も良好になったと述べた。
血液ガス値も次第に改善し、PaO2 29.6mmHg→57.4
mmHg, PaCO2 71.2mmHg→56.3mmHgと
改善した。
NIPPVの適応は高炭酸ガス血症を伴う慢性呼吸不全の急性増悪期
といわれている。今回の患者さんもこれまでの治療法であれば、侵襲
的に挿管をして人工呼吸器による治療が必要となるところであるが、
この治療法により軽快退院することができた。