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今期のインフルエンザ流行について
(当院におけるインフルエンザ患者動向から)
千治松呼吸器循環器内科
千治松 洋一
はじめに:
インフルエンザは冬期に爆発的に流行し、急激な悪寒、発熱、関節痛などの全身症状と咽頭炎などの上気道症状が出現する点で、他の呼吸器ウイルス感染症を原因とする感冒と臨床的に異なる疾患である。 また、インフルエンザの診断と治療は、この数年間の医学の進歩により過去の診断、治療法とまったく異なるものとなってきた。
インフルエンザ診断:
インフルエンザの診断は、迅速診断キットが1999年から利用が可能となり、2003/2004シーズンからは、さらに改良されたインフルエンザ抗原を検出するイムノクロマトグラフィーを利用したキットが主流となってきた(キャピリア FluA,B ラピッドテスタ FluA,Bなど)。 検体は鼻腔拭い液では感度83.3%と報告されており、鼻腔拭い液を使用すべきである。 注意点は、発熱などの発症24時間以内では、鼻腔などの上気道にウイルス量が十分に増殖しておらず、陰性結果となることもあるので、臨床的にインフルエンザを疑う場合は、さらに24時間後に再検査をすることが必要である。
インフルエンザ治療:
インフルエンザの治療法も2001年から使用可能となった抗インフルエンザ剤(ノイラミニダーゼ阻害剤)により全く変わったものとなった。 インフルエンザウイルスはRNA
ウイルスであり、ヘムアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という突起があり、感染細胞からウイルス粒子が放出されるのには、ノイラミニダーゼが作用する必要がある。 リレンザ(吸入)、 タミフル(内服)などの、ノイラミニダーゼ阻害剤は、感染細胞からウイルス粒子が放出されるのを阻害することにより、ウイルスの体内での増殖を抑制する。 両薬剤とも非常に効果的である。 リレンザ吸入は、パウダーが専用容器に納められており、通常成人で1回10mg(2ブリスター)を1日2回、5日間使用する。 発症後48時間以内に投与を開始すべきであるとされている。 吸入器の使用に理解力が必要であり、超高齢者や理解力の低下している例では、使用が困難である。 吸入後、1日〜2日で発熱、全身症状などが改善するが、症例によっては、2〜3日の経過を必要とすることもある(図1)。 タミフルは、1回1カプセル(75mg)1日2回投与で、5日間内服する。 内服であり、使用が容易であるため、多くの例に使用されている。
当院のインフルエンザ発症動向:
2004/2005年は、インフルエンザの発症動向としては、例年にないものであった。
例年では、当院のインフルエンザは、12月末に数名の患者が来院し、1月上旬から急速に患者数が増加し、遅くとも2月上旬には流行が終息するのが、一般的であった。 しかし、2004/2005年は、2月になっても全くインフルエンザの患者がなく、今期はインフルエンザの流行が見られない年になるのであろうかと考えていた。 当院で準備した、インフルエンザ抗原測定キットや、治療薬(リレンザ、タミフル)も無駄だったかと考えていた。 2月9日になり、31歳女性が来院し、夜間から頭痛があり、朝より38.4℃の発熱があり、子供がインフルエンザと診断されたということであった。 インフルエンザ抗原を測定すると、B型陽性の結果を得て、インフルエンザと診断した。 通常のインフルエンザ流行は、A型が先行し、患者の大部分がA型であり、B型インフルエンザは、流行の末期になって少数の患者が出現するというパターンであるが、今期は、B型インフルエンザが先行し、遅れてA型インフルエンザが発症した。 患者数のピークは、3月1日であり、当日のインフルエンザ患者は、臨床診断した患者を含めると12名であった(図2)。 その後は、A型、B型ともほぼ同程度の患者数であったが、インフルエンザ抗原検査で、A型、B型とも陽性例を9例検出した。 3月下旬になってもA型、B型インフルエンザ例を認めたことは、これまでに経験がない(図3)。 また、胃腸症状の強い8例を経験したが、通常のインフルエンザと異なる臨床像を呈した。 血便を認めた例も1例ある。
胃腸症状を呈したインフルエンザ例
症例:72歳、男性。
主訴:嘔吐、下痢。
現病歴および経過:3月11日朝から気分が悪い、嘔吐、下痢で外来を受診した。 咽頭痛あり。 体温36.8℃、インフルエンザ抗原A(+)、B(+)であり、インフルエンザと診断した。 タミフル内服し、点滴注射で補液を数日間行い、病状は改善した。
通常はA型インフルエンザの臨床像が激しく、B型は症状が軽いといわれているが、今期の例では、B型も38〜39℃の発熱、頭痛、関節痛、全身倦怠感などを認め、A型と臨床的には鑑別が困難であった。 インフルエンザを疑うときは、A型、B型とも同時に検査をする必要があると考える。 合計のインフルエンザ症例数は、3月22日の時点で、127名であり、臨床診断:58名、A型:25名、B型:35名、A型、B型混合:9名の結果であった(表1)。
インフルエンザに合併する肺炎は、ウイルスによる原発性ウイルス肺炎の場合と、細菌感染による二次性細菌性肺炎がある。 当院では、インフルエンザと診断した例には、抗インフルエンザ剤と解熱剤(カロナール)のみ処方して、抗菌剤は原則として投与しないで治療をした。 大部分の例には問題がなかったが、4例に肺炎の合併を認め、1例は入院治療を必要とした。
肺炎を合併したインフルエンザ例
症例:63歳、女性。
現病歴および経過:以前から気管支喘息で外来に通院中3月4日に発熱などで、外来を受診した。 A型インフルエンザと診断して、タミフル内服を処方し、発熱は改善したが、3月7日に再度発熱があると外来を受診し、胸部X線写真で肺炎と診断した。 白血球11800、CRP 1.9mg/dlと炎症反応上昇を認めた。 抗菌剤内服治療で改善した。
まとめ:
1) 本年のインフルエンザは通常より1ヶ月遅く発症した。
2) B型がA型よりも早期に発症し、患者数も多かった。 臨床的には、B型とA型の鑑別は困難であった。
3) A型、B型の混合感染9例を認めた。
4) リレンザ吸入、タミフル内服が臨床症状の改善に有効であり、1〜2日で症状は改善した
5) 胃腸症状の強い8例を経験したが、通常のインフルエンザと異なる臨床像を呈した。
6) 抗菌剤は併用しなかったが、大部分の症例で問題がなく、4例に肺炎の合併を認め抗菌剤治療で改善した。
7) 臨床状態の経過観察には、患者さんに熱型表を記録してもらい、有効であった。
参考文献:
1) 特集 インフルエンザ 日本臨床 2003、第61巻、第11号
2) 特集 SARSとウイルス肺炎 臨床医 2003、vol.29,no.11
3) 特集 呼吸器感染症診療最前線 インフルエンザ肺炎の診断、治療、予防の実際
呼吸器科 5(1):6−10、2004
インフルエンザの診断
キャピリアFlu A, Bは、インフルエンザ ウイルスの核蛋白を認識する
特異性の高いモノクローナル抗体を利用した、免疫クロマトグラフィー法
による診断法で、鼻腔ぬぐい液を検査することにより、薬10分でインフル
エンザの診断が可能な器具です。
インフルエンザの治療
リレンザ(吸入)、タミフル(内服)により、インフルエンザの治療は大きく
変わりました。インフルエンザ ウイルスが体内での増殖を抑制する薬剤で
、これを使用することにより、1〜2日で発熱は改善し、全身状態も良好に
なります。
インフルエンザ ウイルスについて
●抗インフルエンザA型・B型抗体
インフルエンザウィルスは表面タンパク質の変異が激しく、ワクチン接種
の効果を左右する大きな要因となっています。また、強い感染力をもつた
め、短期間のうちに広がります。そのため、インフルエンザの迅速なタイ
ピングが重要になっています。
本製品は、インフルエンザウィルスの迅速なタイピングや中和試験に有用
です。
■インフルエンザウィルスの型
インフルエンザウィルスにはA,B,Cの3つの型があります。現在、インフ
ルエンザウィルスで流行を起こすのはA型のH1亜型(ソ連カゼ)、H3亜型
(香港カゼ)、そしてB型の3種類です。ウィルスの構造を下図に模式的に
示します。インフルエンザウィルスの型は核タンパク質(NP)の抗原性の
違いによって分類され、それらはさらに、ウィルス表面タンパク質である
ヘマグルチニン(haemagglutinin:以下HAと略す)とノイラミニダー
ゼ(neuraminidase:以下NAと略す)の抗原性の違いによって亜型に分類
されます。ちなみに死者のでるA型:ソ連カゼはH1N1型、A型:香港カゼ
はH3N2型です。H2N2型は1968年以降日本での分離例はありません。
インフルエンザA型ウィルスのHAは、球状部領域(head
region)と幹領
域(stem region)の2つに分けられます。球状部領域は、ウィルスが標的
細胞に結合するためのレセプター結合部位を含んでいます。また幹領域は
、ウィルス膜と標的細胞の細胞膜との膜融合に必要な融合ペプチド配列を
含んでいます。
インフルエンザのHAの球状部領域は特に抗原性が強く、生産される抗体
のほとんどはこの領域を認識するものです。しかし、この領域は特に変異
が起こりやすいので、ワクチン接種の効果を左右する大きな要因となって
います。さらにインフルエンザは短期間のうちに広がるので、迅速なタイ
ピングが重要となっています。
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